福岡地方裁判所 昭和34年(わ)1238号 判決 1959年12月22日
被告人 杉村五郎
大一一・七・二五生 会社員
主文
一、被告人を懲役一月に処する。
二、本件公訴事実中
「被告人は、昭和三四年一〇月八日夜、福岡市大字春吉前新屋三一〇番地の自宅において、売春婦武田鈴子ら四名が遊客を相手に売春することの情を知りながら、自宅二階六畳間及び階下玄関脇四畳半の間等を貸与し、もつて売春を行う場所を提供したものである」
との事実につき、被告人を免訴する。
理由
第一、罪となるべき事実
被告人は、昭和三四年一〇月九日夜、福岡市大字春吉前新屋三一〇番地の自宅において、売春婦村野良子が氏名不詳の男性三名の遊客を相手に売春することの情を知りながら、自宅中二階の部屋を貸与し、もつて売春を行う場所を提供したものである。
第二、証拠の標目(略)
第三、確定裁判の存在
(1) 昭和三四年一〇月九日、当裁判所において、売春防止法違反罪により、懲役五月及び罰金三万円に処せられ、この裁判は、同年一一月二日確定した。
(2) この事実は、右事件記録により明らかである。
第四、法律の適用
一、売春防止法第一一条第一項(懲役刑選択)
二、刑法第四五条後段、第五〇条
第五、免訴判決の理由
一、確定裁判の存在とその内容。
被告人は、前記第三に記載のとおり、売春防止法違反罪について、確定裁判を受けている。
この確定裁判の内容をなす事実は、当該判決謄本によつて明らかなとおり、
「被告人は、昭和三四年七月初旬から同年同月二二日までの間、多数回にわたり、井口玲子等が不特定の客を相手として売春するに際し、その情を知りながら、その都度同女らから部屋代として一〇〇円ないし三〇〇円を徴して肩書自宅の二階三室、階下四畳半一室を各貸与し、もつて売春を行う場所を提供することを業としたものである。」
という、売春防止法第一一条第二項違反の事実である。
二、右確定裁判の既判力。
(1) 売春防止法第一一条第二項の罪数について。
売春防止法第一一条第二項は、「売春を行う場所を提供することを『業とした者』は、」と規定している。右法条は、この「業とした者は」という文語によつて明らかなとおり、罪数上、いわゆる営業犯といわれるものに属すると解すべきであつて、包括一罪と認めるのが相当である。
(2) 既判力の時間的限界について。
一罪についての既判力の時間的限界に関しては、異説がないわけではないが、「事実審理の可能性のある最後の時」と解するのが正当である。いいかえるならば、原則として第一審判決言渡の時、例外として、上訴審における破棄自判の判決言渡の時を限界として、一罪について、それまでに行われた行為については既判力が及び、その時以後に行われた行為については既判力が及ばないものと解する。
(3) 本件にあてはめていえば、右確定裁判にかかる売春防止法第一一条第二項違反の事実は、結局一罪であり、かつ、この一罪についての既判力は、第一審判決言渡の時である、前記昭和三四年一〇月九日まで行われた行為に及ぶのである。すなわち、同一被告人が、右確定裁判を経た事件の犯行月日(同年七月中)以後、右一〇月九日以前において、右確定裁判を経た事件と同一の場所を、さらに情を知つて、売春を行う場所として提供した行為に対しては、一罪の一部についてすでに確定裁判があつたものとして、その既判力が及ぶわけである。
三、本件公訴事実中の一部に右確定裁判の既判力が及ぶ。
本件公訴事実中
「被告人は、昭和三四年一〇月八日夜、福岡大字春吉前新屋三一〇番地の自宅において、売春婦武田鈴子ら四名が遊客を相手に売春することの情を知りながら、自宅二階六畳間及び階下玄関脇四畳半の間等を貸与し、もつて売春を行う場所を提供したものである。」
との事実は、同一被告人が、右判決言渡の時である前記一〇月九日以前において、前記確定裁判を経た事件と同一の場所を、さらに情を知つて売春を行う場所として提供した行為に当り、前記確定裁判の既判力が及ぶわけであるから、刑訴法第三三七条第一号により、被告人に対し免訴の言渡をする。
以上の理由により、主文のとおり判決する。
(裁判官 横地正義)